約40年前に禅僧の講話を聞いて、人生を見つめ直す機会があった。禅僧は「人知れず野辺に咲く、名も知らぬ一輪の花に心を奪われる時、人間は生きているのです」と述べた。当時32歳の私は電車に乗り遅れないように道端の花を踏みにじることはあっても、花に心を奪われることはなかった。ということは、私は「生きていない」ことになるので、大層ショックを受けた。それ以来、私は野辺に咲く花にも目が向くようになった。
本紙の読者の皆さまは「フラワーソン」というイベントをご存知だろうか。フラワーソンは「フラワー・ウォッチング・マラソン」の略語。実は世界各地ですでに「バードソン」というイベントが盛んに行われている。
バードソンは「バード・ウォッチング・マラソン」の略語で、一定の時間内に何種類の野生の鳥を確認できるかを競い合い、確認した鳥の種類数に応じて寄付を行い、野鳥保護に役立てるためのイベントだ。
フラワーソンはバードソンにヒントを得て、北海道で1997年から始められた日本発祥のイベントである。
5年ごとに6月中旬の2日間を設定し、全道各地で数多くの人々が参加して、「どんな花が咲いているか」をグループ単位で調べるイベント。毎回フラワーソンの調査結果を詳細にまとめることによって、環境変化の実態を把握し、野生植物の保護や環境保護に貢献している。
5回目の今回は6月17、18日に開催され、北海道全域を約950地区に分けて、開花している野生種(帰化植物を含む)を調査し記録していく。前回(12年)は約3100人が参加し、確認開花種数は1149種に及んでいる。
フラワーソンは、全道で一斉に実施され、子どもを含めて誰でも参加が可能で、身近な自然に親しみ、環境変化を知ることによって環境保護に貢献する工夫がなされている点が高く評価されている。
北海道では04年に高橋はるみ知事が「北海道フラワーツーリズム宣言」を行っており、「北海道を世界に誇れる花の大地にしていく」実績が積み重ねられている。フラワーツーリズムを成功させるためには、まず道民が北海道の花々のことをよく知り、愛でると共に、野生植物の保護や自然環境の保護に尽力していくことが大切になる。
そういう意味で、フラワーソンを通して北海道の野生植物の実態を調査・記録し、保護に関わることはフラワーツーリズムの振興につながっている。ぜひとも観光業界もフラワーソンへの関心を高めることによって、日本におけるフラワーツーリズムのさらなる発展に寄与してもらいたい。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)